季語:夜の秋 (よるのあき) (晩夏)
秋の季語かと一瞬思われますが、晩夏の季語です。昼はまだまだ暑い日が続いていますが、朝夕なんとなくさらりとした涼しさを覚えるころ。夜など袖なしでは涼しすぎるくらいのことがあります。夏のたたずまいであるにも関わらず秋のように感じること。明治以降に使われだした季語です。草むらに虫の声を聞き初めるのもこのような夜。「秋の夜」とは違う微妙なところを詠む季語です。
夜の秋のコップの中の氷鳴る 内藤吐天
昼間の暑さも和らぎ、書斎の灯を少し落としてウイスキーのロックを。時折、庭の方から涼しい風が入ってきます。小さな虫の声も聞こえ始めた静かな夜のひと時。手にしたグラスの中の、氷のカランとなった音が、何故か作者の胸中に響いたのです。行く夏を惜しむ気持ちと、近づいてくる秋への作者の思いが、季語「夜の秋」に託されて詠まれています。
和三盆ひとつ含みし夜の秋 一瀬桂子
海外で暮らしていらっしゃる作者ならではの一句です。日本から送られてきた、日本の代表的な和菓子の一つである和三盆。久しぶりに点てたお薄と和三盆を戴きながら、日本の秋に思いを馳せている景と、「夜の秋」の静けさが立ち上がってきます。(美)