季語のたのしみ⑥ 卯の花腐し

卯の花腐し(うのはなくだし/うのはなくたし)(初夏)

 

旧暦四月の別名を「卯の花月」というが、その頃に降り続く長雨。折角美しく咲いている卯の花を腐らせてしまうほど小止みなく降る雨のことをいう。雨が降り続く鬱陶しい季節の中でも、美と風情を感じ取ってきた先人たちの感性が生んだ言葉ではなかろうか。

 

ひと日臥し卯の花腐し美しや  橋本多佳子

 

健康な人にとっては陰鬱な雨でやりきれないが、病む者にはむしろ瑞々しい生気をもらう雨なのだ。若葉のころの雨は割と明るい光を宿している。臥している作者は、降り続く雨の庭を眺めながら心に染み入るような美しさを味わっているのである。

 

湯葉掬ふ京の卯の花腐しかな  美智子

 

京都も雨の似合うところである。しっとりと降る雨の中、どこかの料亭であろうか湯葉の料理を頂いている。はんなりとした京都の湯葉料理と雨の風情を卯の花腐しと結びつけた。この句も鬱陶しい雨ではなく美の感性から捉えた雨の句である。

 

どうしても鬱陶しさを前提に捉えてしまう「卯の花腐し」の季語もこのような詠み方もあるのだと再確認した季語である。(陶子)