季語のたのしみ⑤ 蛙の目借時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛙の目借時/目借時 (かわずのめかりどき/めかりどき)(晩春)

 

春は眠い。ことに花冷えの頃も過ぎ、安定した暖かさが得られる晩春は、眠るのに絶好の季節。睡魔が襲ってきてどうやっても眠く、まさに睡魔との闘い。折しも蛙が鳴き始める頃で、単調な蛙の鳴き声を聞いていると眠たくなってくる。眠くなるのは蛙が人間の目を借りにくるからという、俳諧味のあふれる季語。この季語を知った時、こんな面白い季語があるとは日本人はなんて詩的でユーモアのある民族なのだろうと感服した。眠気に対してなんだか妙に納得する季語なのだ。

 

膝に孫のせて蛙の目借時   清水基吉

可愛いお孫さんを膝にのせている楽しいひと時であっても、その温もりからか、ついつい眠気に襲われてしまう。お孫さんを膝に抱えている手もだんだんと緩み、うつらうつらはじめている作者が目に浮かぶ。膝上のお孫さんはどうしているのだろう。お孫さんもきっとおじいちゃんの膝上で安心し、すやすやと眠り始めているのではないだろうか。穏やかでまったりとしたひととき。季語が多くを語ってくれている。

 

回文で記す手紙や目借時  堤 亜由美

上から読んでも下から読んでも同じ文章。目借時のまったりとしたとき、敢えて回文で手紙を記している。暑さ寒さの頃より、ぬくぬくと眠気も襲うような頃の方が回文を考えるのに合っているようだ。穏やかでまるい心で回文で手紙を書いている。ときどきふっと心地よい眠気が襲ってくる。回文が上手く書けた後、作者はきっとすやすやと眠るのではないだろうか。(え)