季語のたのしみ③ ものの芽

 ものの芽(初春)

 立春を過ぎたとはいえ、まだまだ厳しい寒さが続いております。しかしながら暦の上だけではなく、確実に春が訪れていることを実感するもののひとつに、今回ご紹介する「ものの芽」という季語があります。早春に萌え出る草木は数多くありますが、草の芽、木の芽など様々な芽の総称を「ものの芽」と言います。ものの芽に目を向けると、きらめく光や鳥の囀りに、街中が明るく輝き始めたことに気づくことでしょう。

 

「物芽出て指したる天の真中かな  松本たかし」

土から出たのか、それとも枝からでしょうか。ようやく顔を出した芽は、真っ直ぐと天の真ん中を指しているのです。なんと力強いのでしょう。植物の生命力に溢れ、空の色、日差しまで見えてくるようです。

 

「ものの芽や堤防に犬遊ばせて   降矢とも子」

冬の間は犬と散歩に出かけても、早々に切り上げてしまっていたのでしょう。ものの芽が出始め、ようやく犬を遊ばせることもできるようになり、自分自身も初めて春の訪れを感じさせる光景に気づいたのかもしれません。草花や木々、川に反射する光、木漏れ日など春の到来を告げるものは身近に溢れているのです。(ゆ)